脱エクセルを急ぐな|エクセル管理の限界は「3つのサイン」で判定する
エクセルでの管理がしんどくなってきた。そろそろシステムを入れたほうがいいのか。中小企業の経営者からよく聞く悩みです。
私たちの答えは「まだ急がなくていい」です。この記事で示すのは、移行を考えていい3つの限界サインという判断基準です。サインが出るまでにやっておくエクセル側の手入れも書きます。読み終わる頃には、自社がいまどの段階にいるかを自分で判定できるはずです。
私たちが「脱エクセルを急ぐな」と言う理由
エクセルは、限界のサインが出るまでは最強の業務ツールだと考えています。
エクセルの強みは、すでに社内にあるので追加費用がかからないこと。多くの社員が触れること。そして、業務のやり方が変わったその日のうちに列を足せることです。いちばん大きいのは最後の1つだと思っています。中小企業の業務は、まだ形が固まりきっていないことが多い。固まっていない業務にとって、「いつでも変えられる」は弱点ではなく強みです。
もうひとつ、読む側に持っておいてほしい視点があります。「脱エクセル」を勧める記事はたくさんあります。私たちが検索して読んだ限り、その多くは代わりのシステムを提供している会社が書いています。悪いことではありません。ただ、書き手の立場によって結論は変わります。システムを売る立場からは「入れなくていい」という結論は出しにくいはずです。
私たちはツールを売っていません。業務効率化そのものを支援するのが仕事なので、「今回は入れないほうがいい」という結論も選べます。DX(デジタルを使って業務や事業の形を変えること)はツールを導入することではない、というのが私たちの一貫した考えです。エクセルの話は、その各論にあたります。
早すぎる移行は、なくすはずだった手作業を増やす
移行の本当のコストは、月額の利用料ではありません。時間です。
いまのエクセルにあるデータを整理し直し、入力ルールを作り直し、全員に使い方を覚えてもらう。この作業は本業の合間に発生します。そして残念なことに、この負担がいちばん重いのは、いまエクセルを回しているいちばん忙しい人です。
さらに厄介なことが起きます。システムはエクセルより不自由です。決まった形しか受け付けないから、数字が揃うし、共有もできる。裏を返せば、決まった形から外れる仕事を受け止められません。「この案件だけ支払い条件が違う」「この顧客だけ別ルート」。現場にはそういう例外が必ずあります。
すると何が起きるか。システムに入らない情報が、エクセルに残るのです。システムに入力して、エクセルにも入力する。移行によってなくすはずだった手作業を、移行によって作り出してしまいます。この状態に陥った現場は少なくないのではないか、というのが私たちの見立てです。
もうひとつ、あまり語られない害があります。業務が固まる前にシステムの型にはめると、業務のほうを変えにくくなることです。改善のたびに設定変更や開発会社への依頼が必要になり、「まあ、いまのままでいいか」となります。エクセルなら5分で試せたことが、試されなくなります。
移行を考えていい「3つの限界サイン」
では、移行してよいタイミングはいつなのか。
エクセルには設計上の弱点が3つあります。1つのファイルの中で完結する道具であること。同時に大勢が触ることを想定していないこと。そして自由度が高すぎることです。
大事なのは、弱点があること自体は問題ではない、という点です。問題になるのは、弱点が実際の損失に変わったときだけ。だからサインも3つになります。思いつきで3つに絞ったのではなく、弱点の数だけサインがある、という整理です。
サイン1: 同じ数字を、2回以上手で入力している
判定の問いはこうです。1つの情報を、2か所以上に手で入力していませんか。それは毎週起きていますか。
たとえば受注が決まったら受注管理表に入れ、請求用の別ファイルにも同じ内容を入れ直す。日報の数字を月次の集計表に打ち直す。これはエクセルが「1ファイルで完結する道具」であることの実害です。
転記は必ずずれます。ずれると、どちらが正しいかを照合する作業が生まれます。手間が増えるだけならまだしも、数字そのものが信用できなくなるのが痛い。経営判断の材料が濁ります。
サイン2: 「最新版はどれか」を探している
判定の問いは2つ。同じフォルダの中に、「最新」「最終」「修正後」「v2」といった名前のファイルが2つ以上ありませんか。「いま誰かが開いているので、後で入力します」が週に1回以上起きていませんか。
これは同時編集を想定していないことの実害です。ここで先に試してほしいことがあります。ファイルをクラウドの保存場所(OneDriveやGoogleドライブ)に移し、共同編集にしてみてください。それだけでこの症状はかなり消えます。消えるなら、まだ限界ではありません。
消えない場合が問題です。同じ行を同時に直したい、人によって見せてよい範囲を変えたい。この2つはクラウドに置いても解決しません。エクセルの構造そのものに原因があります。
サイン3: そのファイルを直せる人が、社内に1人しかいない
判定の問いです。そのファイルの計算式やマクロ(エクセルの操作を自動化する仕組み)が壊れたとき、直せる人は何人いますか。ゼロか1人なら該当します。「怖いから誰も触らない」ファイルがあるなら、すでに該当しています。
自由度が高いことの実害です。作り込むほど便利になり、作り込むほど作った本人以外に触れなくなる。そしてその人が辞めたり、長期で休んだりしたときに、業務が止まります。
判断を鈍らせるのは、この状態がふだんは快適だということです。詳しい人が全部やってくれるので、誰も困りません。困るのはその人がいなくなった日です。
なぜ「3つ揃うまで」なのか
サインが1つだけなら、エクセル側の手入れで消せることがほとんどです。2つでも、運用ルールでしのげます。
3つ揃うと話が変わります。互いに絡み合って、身動きが取れなくなるからです。触れる人が1人しかいないファイルは、怖くて構造を直せません。だから二重入力もなくせない。二重入力をなくそうとファイルを作り直せば、その間は誰がどの版を使うかで混乱します。どれか1つを直そうとすると別のどれかが悪化する。この状態を、私たちは限界と呼んでいます。
逆に言えば、1つや2つの段階で移行するのは、自分で直せたはずのものにお金と時間を払う判断です。

サインが出るまでにやっておく、エクセル側の手入れ
サインが3つに満たなかった方へ。いまやるべきはツール探しではなく、こちらです。
- 1つのシートに1つの表だけ置く。見出しは1行にして、結合セルを使わない
- 人が入力する列と、計算で自動的に出る列を分ける。触っていい場所をはっきりさせる
- 入力規則(プルダウン選択)を設定する。「株式会社A」と「(株)A」の表記ゆれが消える
- ファイルはクラウドに置き、共同編集にする。ファイル名にバージョンを付けるのをやめて、1つのファイルを更新し続ける
- マクロを足す前に、その作業手順を1枚の文書にする。文書があれば、他の人でも引き取れる
- 列を足すときは、「この列は誰が何に使うか」を1行メモしておく
地味な作業に見えると思います。ただ、この手入れには捨てにならないという利点があります。将来システムに移すとき、いちばん時間を食うのはデータの整理だからです。表記がそろっていて、1シート1表になっているデータは、そのまま移せます。逆に、結合セルだらけで表記もばらばらのファイルを抱えたまま移行日を迎えたらどうなるか。その整理を、移行作業の真っ最中にやることになります。
先に手を入れておけば、限界の到来そのものも遅くなります。手入れをした結果サインが2つに減ったなら、それは移行が必要になる時期を、その分だけ先に延ばせたということです。
3つ揃ったときは、1業務だけ移す
3つ揃ったら、いよいよ移行を考えます。ここでも急がないほうがいい理由があります。
全部を一度に移さないでください。移すのは、3つのサインが揃っているその業務だけです。受注管理で揃っているなら受注管理だけ。顧客管理がまだ2つなら、顧客管理はエクセルのまま残します。
順番はこうしています。まずその業務の手順を1枚の文書にする。次に、いま使っている列のうち本当に使われている列だけを残す(使われていない列は驚くほど多いはずです)。それから1業務だけ移し、数か月使ってみる。落ち着いてから次の業務を検討する。
エクセルを全部捨てる必要もありません。決まった形で回す管理はシステムが向いていますが、その場限りの集計や、思いつきの分析はエクセルのほうが速く済みます。役割を分けるだけです。私たちが自社で何を仕組みに渡し、何を残したかは設立1年目の会社が作った業務の仕組みに書きました。
まとめ:限界かどうかは、ツールの新しさではなく、サインの数で決まる
エクセル管理をやめるべきかどうかは、流行や周囲の動きで決めるものではありません。自社に何が起きているかで決まります。
判定は3つです。同じ数字を2回入力しているか。最新版を探しているか。直せる人が1人しかいないか。3つ揃ったら1業務だけ移します。それまではエクセルの手入れをします。この順番を守るだけで、多くの会社は無駄な投資を避けられるはずだと考えています。
Polyzmは中小企業の業務効率化を支援していますが、最初にやるのはツール選びではなく業務の棚卸しです。何を仕組みに渡し、何を手元に残すかを決めるのが先だからです。自社のサインはいくつあるのか、次に何をすべきか。一緒に整理してみたい方は、相談窓口からお気軽にご相談ください。
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