ツール選びから始める業務改善は失敗する|先に埋める「業務の棚卸しシート」つき
社内が忙しい。ムダも多い気がする。そう感じて業務効率化の進め方を調べはじめたとき、最初の行動がツール探しになっているなら、いったん手を止めてほしいのです。
この記事では、中小企業の経営者に向けて、ツールを選ぶ前に埋める1枚をそのまま載せます。項目だけでなく、各欄をどう書けば判断に使えるのかという基準まで書きます。書き写せば今日から使えます。
業務改善はツール選定ではなく、やめる業務と仕事の流れの棚卸しから始まります。
ツールを入れたのに仕事が増えるのは、業務効率化の順番が逆だから
なぜツールから入ると失敗するのか。理由は単純で、ツールは仕事を消す道具ではないからです。
ツールがやってくれるのは、仕事を別の場所に移すことだけです。移す対象がはっきりしないまま導入すると、移し先だけが増えます。
増え方には型があります。ひとつめは並走です。新しい管理ツールを入れたのに、これまでのエクセルも念のため残す。結果、同じ情報を二か所に入れることになります。ふたつめは入力係の発生。ツールに情報を入れるという仕事が新設され、誰かの担当になります。みっつめは、選定そのものに時間が溶けること。比較記事を読み、資料を集め、無料期間を試す。その間、現場の仕事は一分も減っていません。
ここで気になるのが、世の中の業務効率化の記事の順番です。多くは効率化の手法を一覧で並べ、後半でおすすめツールを紹介する構成になっています。読めば勉強にはなります。ただ、自社のどの業務にどれを当てるのかは、読者が自分で決めることになります。いちばん難しい部分が読者側に残されているのではないか、というのが私たちの見立てです。
だから順番を逆にします。自社の業務を先に1枚に書き出す。手法もツールも、その1枚を見れば決まります。
ツールの前に埋めるのは、この棚卸しシート1枚です
私たちが棚卸しシートと呼んでいるものです。列は8つあります。
業務名(動詞で書く) | 担当 | 頻度 | 1回の時間 | 月合計 | 誰のための仕事か | 手順を書けるか | 判定 |
|---|
記入例も載せます。書き方を示すための架空の例で、実在の会社の数字は使っていません。
業務名(動詞で書く) | 担当 | 頻度 | 1回の時間 | 月合計 | 誰のための仕事か | 手順を書けるか | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
請求書を作ってPDFで取引先に送る | 経理担当 | 月1回・20社分 | 5分 | 100分 | 取引先と自社の入金確認 | 書ける | 渡す |
日報をまとめて社内メールで共有する | 各担当 | 毎日 | 10分 | 200分 | (答えられない) | 書ける | やめる |
見積もりの中身を決める | 代表 | 週2回 | 40分 | 320分 | 顧客 | 書けない | 残す |
右端の判定列に入る言葉は4つだけです。何をどう振り分けるかは後半で説明しますので、書き出しの段階では空欄のままでかまいません。
いきなり全社を一斉にやろうとすると、まず終わりません。ひとつの部門、あるいは自分の周辺の仕事から、2週間ぶんを書き出すくらいが現実的です。粗くてかまわないので、全部出すことを優先します。
棚卸しシートの各列には、埋め方の基準がある
シートは項目よりも書き方で差が出ます。ここからが本題です。
業務名は動詞で書く
「請求」「経理」のような名詞で書くと、中身が隠れます。「請求書を作ってPDFで取引先に送る」まで書いて、やっと手を入れられる単位になります。動詞で書けない業務は、たいてい複数の仕事がひとかたまりになっています。その場合は行を分けます。
担当欄には手を動かす人の名前を書く
「経理」「営業部」と部署名で書くと、あとで渡し先を決めるときに困ります。実際に手を動かしている人まで書きます。ここで名前が2人3人と並ぶ行は、分担があいまいなまま回っている仕事です。誰かが気づいたときにやる、という状態は本人たちも自覚していないことが多いので、書き出しの場で必ず表に出しておきます。
頻度と時間は体感でいい
正確さよりも網羅を優先します。ストップウォッチで測る必要はありません。「だいたい10分」で十分です。数字の精度を求めた瞬間に、棚卸しは止まります。件数で重さが変わる仕事は、「月1回・20社分」のように件数まで書いておきます。1回の時間はあくまで1件あたりで書き、掛け算は次の列でやります。
月合計だけは必ず計算する
頻度と1回の時間から、月あたりの分数を出します。ここは手を抜きません。1回5分の仕事でも、毎日やれば月100分になります。逆に、いかにも面倒な月次作業が月60分ということもあります。体感の面倒さと、実際に奪われている時間は一致しません。この列があると、改善の順番を時間で決められます。感覚で選ぶより、判断がぶれません。
「誰のための仕事か」で手が止まるかを見る
その仕事の成果物を誰が受け取り、何に使っているのかを書きます。この列は、シートの中でもっとも判断を動かします。書けない業務が出てきたら、それはやめる候補です。「昔からやっているから」で続いている仕事は、ここで必ず止まります。手が止まったら、受け取り手に「これ、なくても困りますか」と聞くところまでやります。
手順を書けるかを三段階で見る
その仕事の手順を、他人が読んで再現できる形で書けるか。書ける、書けない、すでに書いてある、の三つで判定します。「誰でもできるか」と近い問いですが、あえて手順という言葉にしています。手順を書けない仕事は、人にも道具にも渡せません。自動化できるかどうかは、ほぼこの列で決まります。
月次と年次の業務は意識して拾う
書き出しの場では、いま抱えている仕事ばかりが挙がります。月末だけの作業、決算期の作業、年に数回の届け出は記憶から落ちます。対策は単純で、過去1年ぶんのカレンダーと送信済みメールをさかのぼることです。地味な作業ですが、ここで拾える業務がいちばん重い、ということもあります。
埋め終わったら、4つに仕分ける
棚卸しの目的は、ムダを見つけることではありません。やめると決めることです。見つけて終わりにすると、シートは現状の記録で止まります。
書き出しが終わったら、最後の判定列を埋めます。使う言葉は4つだけです。
- やめる。受け取り手を書けなかった仕事、または受け取り手が「なくても困らない」と答えた仕事
- 減らす。必要ではあるが、頻度や細かさが過剰な仕事。週次を隔週にする、報告項目を半分にする
- 渡す。手順を書けて、途中に判断が入らない仕事。人に渡すか、道具に渡す
- 残す。判断が要る仕事、相手の感情が絡む仕事。ここは効率化の対象にしない
大事なのは順番です。上から順に当てはめて、当てはまらなかったものだけを次に送ります。
なぜ順番にこだわるのか。やめるを飛ばして渡すから考え始めると、ムダな仕事を高速化することになるからです。やめれば0分になる仕事に、月額料金を払って自動化の設定をする。これがいちばんもったいない失敗だと考えています。
もうひとつ、残すに何を置くかは経営判断そのものです。効率化の議論は、放っておくと全部を減らす方向に向かいます。ですが、顧客と向き合う時間や次の一手を考える時間は、減らすために棚卸しをしているわけではありません。やめるを実行して空いた時間の行き先が、残すの列です。ここを先に決めておくと、改善が単なる引き算で終わりません。

ツールを選ぶのは「渡す」が出てからでいい
ここまで来ると、ツールの選定は一気に楽になります。迷う余地がほとんど残らないからです。
対象は「渡す」と判定した行だけです。その中を月合計の大きい順に並べ、上から1つ選びます。あとは、その1行のためだけにツールを探します。比較記事を端から読む必要はありません。探すものが決まっているからです。
同時に2つ入れないことも、先に決めておきます。2つ同時に変えると、楽になったのか、何が効いたのかがわからなくなります。切り分けられない改善は、次に活かせません。
そして、ツールを設定する前に手順書を書きます。まず手作業でやってみる。うまくいった手順を文書にする。その文書どおりにツールを設定する。遠回りに見えますが、いきなり自動化から入ると例外に弱い仕組みができあがります。私たちは自社の制作や運用でも、手順の文書化を先に、自動化を後に、という順番を自分たちのルールとして決めています。その実際は設立1年目の会社が作った業務の仕組みに書きました。
AIの活用も同じ順番でいいはずです。どの業務にAIを当てるかは、シートの「渡す」の行から選べば決まります。始め方は中小企業のAI活用、何から始める?にまとめています。
まとめ:業務効率化の進め方は、この順番
- 業務改善はツール選定ではなく、やめる業務の棚卸しから始まる
- シートは8列。なかでも「誰のための仕事か」と「手順を書けるか」が判断を決める
- 判定はやめる、減らす、渡す、残すの順。この順番は入れ替えない
- ツールを探すのは「渡す」の行が出てから。1つずつ入れる
シートを埋めるところまでは社内だけでできます。全社を一度にやろうとせず、ひとつの部門から始めれば、思っているより早く形になります。
止まりやすいのはその先です。やめるの判断は、社内の力関係や過去の経緯が絡むと決めにくくなります。渡す先の設計も、経験がないと迷うところです。Polyzmでは、業務の棚卸しから、やめる業務の見極め、ツールの選定と定着までを支援しています。埋めてみたシートを前に、どこから手をつけるかを一緒に整理したい方は、相談窓口からお気軽にご相談ください。
CONTACT
読むだけでは進まないことは、一緒に。
自社の場合はどう考えるべきか。記事の内容を御社の状況に当てはめるところから、お手伝いします。